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脳卒中のリスクファクター

脳梗塞の危険因子は多数存在します。この中には高齢であるほど脳梗塞の発症は増加するなど年齢、性別、人種、遺伝的要因など修正不能な因子があります。一方では修正可能な危険因子としては以下のようなものがあり、これらの因子が合併するとその脳卒中の危険度はより高まります。

高血圧症

脳卒中発症例の約70%は血圧の管理で予防できたのではないかとする報告もあり、高血圧は脳出血、脳梗塞、くも膜下出血を問わず脳卒中の最大の危険因子です。収縮期血圧、拡張期血圧を問わず、血圧が上昇すれば、正相関して脳梗塞発症率は増加します。高血圧は脳動脈硬化との関連が高く、主幹動脈では高血圧による血管内皮障害から動脈硬化(アテローム性硬化)を引き起こし、最終的には血栓で血管を閉塞します。

一方穿通枝の細動脈ではリポヒアリノーシス(脂肪硝子変性)による血管内腔の狭窄、閉塞を引き起こし、ラクナ梗塞を生じます。高度な主幹動脈狭窄病変があると脳血流の自動調節能が正常とは異なっており、降圧で大きく脳の血流が低下し血行力学的な脳虚血を引き起こす可能性があり急激な血圧の降下は好ましくない場合があります。理想的には血圧は数カ月かけて収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHg以下に下げるようにコントロールする方が良いと思われます。

糖尿病

一般に正常者の1.5-3.0倍のリスクを生じるとされ、このリスクは女性に有意に高いようです。血糖コントロールが不良であればより脳卒中の危険性は増加します。これは糖尿病による高血糖が組織蛋白を糖化させ動脈硬化を促進させることのみならず、凝固系の亢進、線溶活性の低下、血小板の粘着能、凝集能を亢進させ脳血栓へと導くためです。HbA1cを指標として血糖をコントロールする必要があります。

高脂血症

総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の高値、HDLコレステロールの低値は皮質枝系脳梗塞の危険因子と考えられています。日本でも食生活の欧米化が進むにつれこのような病態が問題となってきています。高脂血症の場合には脳の血管のみならず心臓の冠動脈の動脈硬化(心筋梗塞)についても注意を払う必要があります。

心疾患

心房細動、僧帽弁狭窄、最近の大きな心筋梗塞、感染性心内膜炎、心臓弁置換術後の状態は危険因子であり、このほか心筋症、僧帽弁逸脱、僧帽弁輪石灰化、卵円孔開存なども危険因子と考えられています。 特に心房細動は高齢者では脳塞栓の原因として大きな要因であり、多くは弁膜症のない非弁膜性心房細動であり、60歳以上になると2-4%に見られ加齢に伴い増加すると言われています。心房細動がある場合には心房内の血流のうっ滞、乱流などから心房内血栓を形成し、遊離した血栓が脳の血管を詰め、脳塞栓を引き起こしますのでワーファリンによる予防が必要な状態かどうかの判断が必要です。

喫煙

喫煙者の脳卒中発症のリスクは非喫煙者の1.5-2.9倍あり、またこれに高血圧が加わると10-20倍になるようです。喫煙は血小板凝集能の亢進、血液凝固因子(フィブリンなど)の増加、ヘマトクリットの上昇、HDLコレステロールの低下などをきたし、脳梗塞、脳出血ともに発症率を上げます。禁煙後は約数年で非喫煙者と同様の状態に戻ると言われており、禁煙の重要性がわかると思います。

一過性脳虚血発作(TIA)

脳梗塞発症の警告発作と考えるべきであり、TIA発症後脳梗塞に移行してゆく頻度は最初の1年が約12%であり、その後は一年に約1%とかなりの高率です。原因としては主幹動脈狭窄部に付着した血栓が剥離して遊走し、その遠位の血管を詰めてしまう(微小血栓による動脈ー動脈塞栓)ことが多いとされ、予防としては抗血小板薬(バファリンやパナルジン)の投与、内頚動脈の狭窄が著明であれば頚動脈内膜剥離術の適応などを検討する必要があります。

主幹動脈狭窄病変

頚部、眼窩部に血管雑音が聴取されれば、主幹動脈の狭窄程度につき評価する必要がある。頚部血管エコー、MR angiography、ヘリカルCT、血管造影などが必要となる例があります(頚部血管エコー検査が非常に注目されています)。頚部の動脈の動脈硬化と心臓の冠動脈の動脈硬化は関連があるとされ、動脈硬化が強い場合には脳だけでなく心臓の方にも注意を払う必要があります。予防や治療措置としては前述の一過性脳虚血発作に準じます。

飲酒

少量の飲酒では(日本酒1合/日程度)は脳梗塞の発症に関わらないか予防的に働く可能性があります。しかし多量の飲酒は危険度を高めるとされ、勧められるものではありません。

その他

これらの危険因子のほか、 高ヘマトクリット値、抗リン脂質抗体、凝固線溶系の異常、ホモシステイン血症、無症候性脳梗塞なども危険因子として考慮すべきものがあります。

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